『  海に  ― (3) ―  

 

 

 

 

 

 

 

 

  こつん こつん こつん

 

  カツ カツ カツ ・・・

 

石造りの路に 二人の歩く音だけが響く。

ここは王族専用なのか 行き交うモノはいない。

ふと視線を足元から外した時 ジョーは下方に民たちが行き来する別の路を見た。

 

    お?  ・・・ ふうん ・・・

    王族は 歩く道も別 ってことか

 

ちらりと一瞥すると 彼はまた前を向き歩き続けた。

 

 ― 海の底の王国は 広大だった。 そして 圧倒的な静けさが支配している。

かなり多くの人々をみかけたが 彼らは < 静か > なのだ。

歩く時も足音をたてず、微かな衣擦れの音とともにひっそりと移動するのだ。

勿論 口からの音声会話などはなく 表面上は皆、黙々と歩いている。

遠くになにか大きな建物 ― 製造現場のようなものも見えたが やはり 音はしない。

廃墟か? と じっと見つめれば ちゃんと稼働していた。

 

    ふうん ・・・ 徹底的に静けさが好み ってことか?

    海の底 は ずっとこの静けさが支配しているのか ・・・・

 

10数分の < 散歩 > で ジョーはこの世界に関してかなりの情報を得た、と思った。

 

 

    これだけの文明があれば 地上に撃って出るのは簡単だろうに・・・

    彼はなぜ この海の底にへばり付いているのだろう?

 

    謎だらけだな ここは ・・・ 王の考えもさっぱりわからないし。

    今しばらくは大人しくしていた方が得策だな。

    脱出する算段は それから だ。

    彼らは 地上の人類とは別種なのだろうか・・・

 

「 ― ・・・・・ 

「 ふふん ・・・ 随分大人しいな 

王は ずっと後ろに従っている茶色の髪の青年をちら・・と振り返る。

「 こっちもバカじゃないからね。  無意味なことはしない。 」

「 それは随分と賢明なことだな 

「 < 見回り > が 国王の仕事 とは思えないけど ? 

「 見回り などではない。  ・・・ これはただのヒマつぶしだ。 」

「 ?? 暇つぶし?? 

「 そうだ。  ―  おい 聞いてもいいか 」

「 ぼくが応えられることなら ・・・ ぼくだって地上の全てを

 知っているわけじゃない 」

「 ・・・ トクベツなことじゃない。 ただ オマエの場合、を聞きたいのだ 

「 ??? 」

「 あのオンナは オマエのモノか 」

「 ! ・・・ フランソワーズは ぼくの大切なヒトだ。 命より大切な

 ただひとりの女性 さ ! 」 

「 ふらんそわず というのか。  やわらかい響きの名だな 」

「 ・・・・ 」

「 地上では ごく普通につがいになるのか 

「 ???  ここでは ― 違うのかい。  」 

「 民たちは自然につがいになっている。 王族は 決められた相手がいる。 

「 誰が決めるのかい? 親?  

「 海の神がきめる。 

「 それじゃ ・・・ あの王妃も? 」

「 あれは ― 我が拾ったモノだ。 海の神に許しを請うて妃にした 」

「 ・・・ ふうん   言っておくけど。 地上では愛しあったもの同士が

 一緒になるんだ。  ツガイ って言葉はさ〜〜〜 人間にはちょっとな〜 」

「 ??  サカナは ツガイにはならんだろう 」

「 魚じゃなくて! あ〜〜 鳥 とか 犬や猫なんかの動物 とか ・・・ 」

「 とり? いぬ  ねこ? なんだ それは。 」

「 ・・・ いない ・・・か。  ここには ・・・ 

 ぼくも聞きたいよ。  ここは静けさが支配する世界なのかい 」

「 騒々しい音をたてることは 下品なことだ。  我々は心で話す。 」

「 王族だけは音声会話 するのかい 」

「 そうだ。 」

「 静けさがよいかどうか ― それは個人の好みだと思うよ。

 だから この世界のことをどうこう言う気持ちはないけど。

  ― 音・・ 音楽も素晴らしいよ。 それは確かさ 」

「 ・・・ わからない 我には。  

 おい ・・・ もうひとつ 聞くぞ。 」

「 なんだい。 」

「 ― オマエらの世界 ・・・ 地上では どうやって愛を伝えるのか  」 

「 なぜ そんなことを聞くのかい。 」

「 ただ 興味をもっただけだ。  さあ ― ゆくぞ。

 とんだヒマつぶしをしてしまった。   ついて来い 」

「 ・・・ 他の奴隷は使役をしているのかい 」

「 奴隷溜りに落とされたいのか??  」

「 他にも地上のニンゲンがいるのか 

「 奴隷溜りに置いてある。 多くは動かない。 

「 動かない??? 死んでいるのか  

「 − 生きているニンゲンを 捕獲できることはほとんど ない。

 ここで動くのは 機械だけだ。 

「 ! それじゃ ・・・ 奴隷 とは アンドロイドやロボットなのか?? 」

「 それがどういうモノが知らんが。 奴隷として使っているのは機械人形ばかりだ 

 半数は稼働しないが。 」

「 ・・・ そう か ・・・  」

「 オマエらは 珍しいケースだ。 本当に ニンゲン なのか 

「 何回も言っただろう! ぼく達は人間だ。 

 確かにこの身体の中には機械が入っているが ― ぼく達はその機械を使いこなしている。

 ニンゲンとは 機械を支配できる存在のことさ。 」

「 ふん ・・・ そう思っているだけではないのか。

 しらず しらずに機械に頼り 機械によりかかり生きてゆくぞ

 その方が楽だからな  

「 ! ぼく達はその考え方には馴染まない。 なぜなら ぼく達はニンゲンだから さ 」

「 ふふん  理屈はどうでも言えるだろうさ。 」

「 ・・・ 議論しても平行線だな。 地上のモノを軽蔑しているのなら ―

 なぜぼく達を拉致した?  いや あの大渦巻をつかって船舶を引きこみ

 大勢の人間を殺すのは なんのためだ! 」

「 ・・・ ふ ・・・ 地上のモノに興味があっただけだ ・・・

 地上のニンゲンは ほとんどがここまで生きて辿りつけない。  

 もう 飽きた ・・・ オマエらは生き残った珍しい存在なので 興味があっただけだ 」

「 ただの好奇心で ・・・ 大勢のヒトを ! 」

「 ―  もうよい。 音による会話は やはり疲れる ・・・

 オマエ ・・・ 我の警護をせよ。 」

「 な んだって 」

「 ふん  ツガイの相手はちゃんと生きているから安心しろ。

 ・・・ さあ コイツをつれてゆけ 」

王は煩そうに手を振ると さっと下僕がかけよってきた。

 

     うわ???  どこにいたんだ??

     気配を消していた ・・・ とか ・・・?

 

     いや そもそもここの住民たちは 気配 が薄い・・

     生きるオーラが薄い ということか??

 

「 ・・・? 」

「 ああ 奴隷溜り ではない。 我の宮で警備をさせろ。

 ああ 大丈夫、コレは我に害をなすことはできない。 」

「 ・・・ 」

下僕は ぱっと蹲り王の命令を理解した様子を示した。

「 ・・・・」

 トン。    下僕は ジョーの背中を突く。

「 わかったよ。  ふん ・・・ これ以上はなにもできない  ― 今のところは。

 それにしても 本当に静かな世界なんだなあ ・・・ 子供たちも音ナシかい 」

「 !! 」

去り際に何気なくつぶやいたジョーの言葉に 王はするどく振り向いた。

「 ・・・? 」

「 ・・・ さっさと行け。  そして待機せよ 

「 わかったよ。  やれやれ ・・・ 静かなる王国の番人か 

 

    かつん かつん かつん ・・・ ひた ひた ひた ・・・

 

石作りの回廊にジョーのブーツの音がけが響く。

「 ・・・・・ 」

時折すれ違う下僕らが 目を見張りジョーを見ている。

「 あは やっぱ音がするのはご法度なのかな〜〜  ねえ 君?

 ぼくの足音、ウルサイかい? 」

「 ・・・・・ 」

ジョーの側を監視しつつ歩く下僕は なにも答えない。

「 あ〜〜 音声会話は庶民には許されてないって言ってたな〜〜

 そんなら  ― えっと ・・・ ぼくでも通じるかな〜〜〜

 ( なあ ぼくの足音 ウルサイかな ? ) 」

彼は強く心の中で語りかけてみた。

「 !  ( いいえ  音っていいなあ と思います ) 」

すっと < 会話 > が返ってきた。

「 わお♪  やった〜〜〜〜  それじゃ ・・・

 ( この国は いつもこんなに静かなのかい。 子供たちも? ) 」

「 ・・・ ( 子供は いない ) 」

「 え??  ああ 王宮にはいないのかな?

 ( 街もこんなに静かなのかな〜 ) 」

「 ( 音をたてることは しない。 我らは音がなくても暮らしてゆける ) 」

「 ふうん? そりゃそうかもしれないけどさ〜〜  

 ( 子供の頃から 静かに暮らしていたのかい ) 」

「 ( そうだ。 ) 」

「 ( 静かな子供って ありえるかな?  皆 なにして遊ぶのかい ) 」

「 ( 子供は ― いない。 もう いない ) 

「 もう いない??  ( この王国に 子供は ・・・ いない? ) 」

「 ( いない。 もう随分と長い時間、 新しい命の誕生は ない ) 」

「 ―  え ・・・??? 」

 

  ・・・・。  下僕はドアを開けた。 どうやらここが ジョーに与えられた

< 独房 >?? らしい。

 

「 ふん ・・・ まあ鉄格子はないってことか。 

 しかし ― おい ちょっと待て! まだ王に聞きたいことがあるんだ! 」  

「  ・・・・・ 」

下僕は無表情に 彼の背を押す。 入れ、ということらしい。

「 くそ〜〜〜 面倒だな! ( おい もう一回 王に会いたい! ) 」

「 ・・・・ 」

もう返事はなかった。 下僕はさらにジョーの背を押す。

 

    う〜ん ・・・  ここでコイツを降り切るのは簡単だし

    加速装置で逃亡することもできる けど。

 

    しかし ― フランの無事も確認しないと ・・・

    ここはひとまず < 囚人 > に甘んじるか

 

「 ふん ( ・・・ ああ わかったよ もう大人しくするってば ) 」

「 ・・・・ 」

ジョーが素直になったのを確認すると 下僕はドアに施錠をし、立ち去った。

「 ・・・・ なんだ、こんな鍵、一ひねり、だ。 慌てることはないか。

 この首輪さえ取れれば ― コトは簡単なんだけがな ・・・ 」

柔らかな金属みたいな < 首輪 > は がっちりと首に巻き付いている。

「 窒息死 なんて冗談じゃないからな・・・

 ふん ・・・ 囚人用にしては ―  まあまあ ってとこか・・・ 」

ジョーは 改めてその小部屋を見回す。

低いベッドらしきモノがあり 窓も照明器具も見当たらないのだが

部屋全体はほの明るい。 この都市全体を包むぼんやりした明るさがここにもある。

「 ・・・ ま ともかく今は休むか。  明日になればまた局面も変わってくるだろうし

 フランのこともわかるかもしれないよね。 」

 ぼすん。  彼はベッドに腰を下ろした。 

「 へえ ・・・ なんとか寝られそうだな? なかなかサービスいいなあ

 ・・・ フラン ・・・ フラン ・・・ どうしてる? 無事か  」

脳波通信を送ろうしたが 思い留まった。

「 王サマが 筒抜けだ、と言ってたな。 不愉快だ ・・・

 ・・・ ひとまず寝るか。  とりあえず生命の危機はない・・らしい。

 逃げる算段は 明日になってから、だな あ〜〜〜 腹減ったなあ ・・・

 ま ・・・ 一介の捕虜は贅沢はいえない か・・・ 」

ジョーは ごろり、と寝ころんで目を閉じた。

 

 

 

 ひた ひた ひた・・・  奴婢達が 広い部屋の中を行き来している。

帳の向こうにあるベッドを整えるモノ、 長椅子風のこしかけを磨くモノ・・・

豪華な椅子に腰かけている王妃に 飲み物を捧げたり、着替えを整えたり

中には 彼女の濃い髪を梳くものもいる。

「 ああ もういいわ。 皆 おさがり。  」

「 ・・・・・? 」

奴婢の中で年嵩と思われる者が 蹲りつつもそっと王妃を見上げている。

「 いいの いいの。 あとは自分でやるわ。 」

「 ・・・・? 」

「 え? ああ ・・・このコはわたしの話し相手をさせるの。 」

「 ・・・・ 」

「 そうよ だから皆 もういいの、おさがり。 あとはこのコにやらせるから 」

「 ・・・・ 」

奴婢たちは固まって蹲り ちらちら・・・ フランソワーズの方をみている。

「 おさがり。 ほら! 」

王妃は 煩そうに手を振り奴婢を下がらせた。

「 ・・・ あ あのう〜〜 

「 なあに。 」

「 わたし ・・・ こちらに居てもいいのでしょうか。 」

「 ふふん ・・・ この宮にわたくしに逆らえる者はいないの。

 ねえ ― それよりも地上のこと、聞かせて。  」

「 地上のこと、ですか 」

「 そうよ。  ここは ・・・ この海の底はね 時間が違うみたいなの。」

「 ちがう? 時間が? 」

「 そうなの。 わたくしは ・・・どのくらいの時間、ここにいるのかよくわからないの。

 地上とは全く違った時間が流れているみたいよ 

「 そうなんですか ・・・・ 」

「 とてつもなく長い時を過ごしている気もするし ・・・ 船から落ちたのは

 つい先週 みたいな気もするの。 

「 王様は 陛下はなんとおっしゃっているのですか 

「 王? さあ ・・・ あのヒトとはほとんど会わないからわからないわ。 

「 ? だって・・・ ご夫婦なのでしょう?? 」

「 形だけ よ。 あのヒトは 珍しい獲物 を自分のモノだって宣言していたいだけ。

 わたくしが地上のオンナだからで わたくし自身には興味はないの。 」

「 そう ・・・ でしょうか 」

「 そうよ。 ねえ それより地上のことを話して。

 ちゃんと 声に出したおしゃべりがしたいのよ。 」

「 ・・・ 王妃さま。  あの その前に ・・・

 ここは ・・・ この海の底の国はどうしてこんなにいつもどこでも森閑としているのですか 」

「 ・・・ アナタも不思議に思う? 

「 はい。 静けさを好む、と伺いましたけど それにしても  」

「 そうよね。 理由はね ― この世界は滅びの路に入っているから よ 

「 滅びの路?? 」

 

 そうよ  これは聞いたハナシだけど ・・・と 王妃は淡々と語り始めた。

 

 海の底の王国は いつの頃からか国全体を青い裳のような重い空気が覆い始めていた。

疫病が流行ったとか 人心が荒んだとかいうことではない。 特別な事は起きて居ない。

それは一種の閉塞感にも似ていた。

原因は ― 子供が生まれる数が減ってきたからだ。 

それは徐々にではあったが確実だった。

今では 新しい生命の誕生はごく稀なことになってきている。

酸素は海水からふんだんに作れるし 食糧も問題はない。

近隣に同じ種族は存在しないし 地上からちょっかいを出してくるモノもいない。

以前 何回か侵略を試みたモノたちもいたが 深海ではとても動きが取れなかったので

王の軍隊はたちまち撃退した。

深海のそのまた底は 静で平穏な時間がゆうるりゆるゆる・・・流れていた。 

  そして ― いつしか 人口が増えなくなった。 

地上から人間を連れてこようと試みたがたいていは死んでしまった。

 

「 ・・・ という話をね、あちこちから聞いたのよ。 」

「 まあ ・・・! 」

「 人口の減少については 歴代の王はそれでもいろいろと対策を試みたらしいのね。

 だけど原因はわからずに ぽろり ぽろり と人々は欠けていったのよ。

 そして今でも続いているわ。 」

「 それは ― それでこの・・重い、というか淋しい雰囲気に? 

「 でしょうね。 諦め みたいな雰囲気でいっぱいだと思わない?

 ああ〜〜〜 もうわたくしはどうかなりそうよ! 」

「 ・・・ 地上に出る とかは考えないのですか。 」

「 無理みたいね。  ここに生きて捕まったのはアナタ達くらいよ 」

「 貴女も・・・ 」

「 そう ・・・ わたくしは人間ではないのかもしれないわ・・・ 」

「 わたし達は コレ がある限りここから逃れられません。 」

フランソワーズは マフラーをずらし例の首輪を示した。

「 ああ ・・・ それ。  王の腕輪があればすぐに外れるみたいよ。 」

「 そうですか! 」

「 王は ・・・ なぜかわたくしには首輪を付けなかった ・・・ 」

「 ・・・ それは貴女を大切に想って 」

「 違うわ ・・・ あのヒトはわたくしのことなど、全く気にも留めていないの 」

「 ではどうして貴女を助け 妃になさったのでしょう 」

「 もの珍しかったのでしょ。  地上の女と竪琴が 」

「 竪琴?? 」

「 ええ ・・・ わたくしは海に落ちたとき 竪琴を身体に括りつけていたので ・・・

 浮かびあがることができなかったの。 」

「 竪琴の名手でいらしたのね? 」

「 わたくは ― いつもどこでも 竪琴と一緒だった ・・・ 銀の竪琴 と ・・ 」

王妃の頬に つつつ・・・涙がこぼれおちる。

「 王妃さま。 貴女の竪琴は? 」

「 わからないわ。  王がもっていってしまったの。 」

「 あ じゃあこの王宮にあるのですね? 」

「 多分 ・・・ 破壊していない限り 」

「 待ってください!  ―−−−−−−−−  ん 〜〜〜 」

フランソワーズは 探索レンジを最大にし四方を < 見た >

「 なにを ・・・ しているの?? 」

「 ・・・ お静かに!  −−−−− ・・・・ あった! 」

「 え?? 

「 わたしには 遠くを < 見る > ことができる眼があるのです。

 ありました。  王の寝所の ・・・ 帳の奥に! 」

「 ! 竪琴が・・・? わたくしの竪琴 ・・・ 無事なの??」

「 銀色の竪琴ですね? ・・・ どこも損傷してはいないようですね。

 いえ ・・・ とても大切に飾ってあります。 

「 飾って??? 

「 ええ ・・・ 埃を被ったりはしていません。 」

「 ・・・ 信じられない・・・! どこか倉庫の奥にでも放り込んだか

 捨ててしまっただろうと思っていたわ 」

「 返して欲しい、と願われたのですか? 

「 ええ 勿論。 でも ・・・ 海の底に沈んで壊れてしまった、 と言ったきり・・

 ここでは 音を立てるのは許されない とか ・・・ 

「 そんなの、可笑しいです。 ニンゲン、いえ 動物だって 音楽が好きなはず・・・

 さきほどだって ・・・ 人々は寄ってきたではありませんか 」

「 そうね ・・・ ああ 思いっ切り竪琴を弾きたいわ そして 歌いたい! 

「 ね!  音を ・・・ 音楽をこの国の人々に聞かせたら ・・・

 音楽をこの世界に広めたら − 活気が戻るかもしれません。 」

「 そう ・・・でも そんなこと、出来るかしら ・・・ 」

「 やってみましょう!  王様に竪琴を返してもらいましょう! 」

「 ・・・ あのヒト 本気でわたくしの言うことなど聞いてはくれないわ。

 わたしは形だけの妃、 飾り物 ですもの 」

「 やってみなくちゃ! 

「 アナタ ・・・ 勇気があるのね 」

「 うふふ。 < あとは勇気だけだ! > ってね? 」

「 え?? 」

「 ちょっと待ってください。 え〜と ・・・ ええ もう誰に聞かれてもいいわ!

 

      ジョー −−−−−−−−−  !!!

 

フランソワーズは 脳波通信で そして 心の中で 最大に声を張り上げた。

 

 

   シュ −−−ッ !!! 

 

すぐに聞きなれた特殊な音が聞こえ ―  赤い影が現れ ・・・

 

「 フラン! どうした?? 」 

 

セピアの瞳が 彼女の側に到着していた。

「 ジョー!  ねえ わたし達、王妃さまとわたしを王さまのところに連れていって 」

「 え? 」

「 まあ どこから現れたの?? 」

「 ・・・ あ ジョーは 誰よりも速く走れるチカラをもっているのです。 」

「 すごいわあ〜〜  いいわ、王のところに行きましょう。

 わたくしが行けば 誰も止めたりはできないの。  」

「 ありがとうございます! 

王妃を先頭に 王の部屋へ向かった。

 

 

 

「 ― これはどういうことか 」

王は不機嫌、いや 不愉快の骨頂・・・という表情をしている。

彼の私室に いきなり三人が押し掛けてきたのだから・・・

「 ・・・ 首輪を絞めるな ! 」

ジョーは慎重に フランソワーズを背後に庇う。 そんな彼を王妃はずい、と押しのけた。

「 陛下。 あの! 」

「 ・・・ そなたが企てたのか 」

「 はい。 王は わたくしを拾ってくださいましたわ。海の名をもっていたからって。 」

「 ・・・・・ 」

「 奴婢に落としてください!  でもわたくしの竪琴を返して! 」

「 たてごと ・・・?  ああ そなたの身体に括りつけられていたアレか 」

「 そうです! 竪琴があれば ― わたくしは何もいりません!  奴婢で結構です 」

「 そなたを助けたのは ― 名など ・・・ 関係ない 」

「 え ・・? 」

「 そなたが ・・・大地の色の瞳をしていたから だ ・・・ 」

王は 薄い色の瞳でじっと妃を見つめた。

「 ・・・ え ・・・ 」

「 アレをそなたは操れるのか 」

「 はい。 わたくしは竪琴を弾くために生きてきたのです。 」

「 ・・・・ 」

王は 下僕に向かい合図をした。

「 では ― ひいてみるがいい。  我らの・・・ この国のモノの心を

 震わすことができるか?  できるのであれば ― そなたを解放しよう 」

「 ! 本当ですか 」

「 ・・・・ 」

下僕が 銀の竪琴 ― 小型のハープ ― を捧げ持ってきた。

「 ! わたくしの ・・・ 竪琴 !! 」

王妃は 竪琴をしっかりと胸に抱く。

「 王妃さま!  奏でてください。 わたし 踊ります! 」

「 なにを弾けばいいかしら 」

「 そう ・・・ こんな曲をご存じですか 」

 ふんふん〜〜〜〜 ♪  フランソワーズは 『 くるみ割り人形 』 から

一節を口ずさんでみた。

「 あ ・・・ 聞いたことがあるわ!  そう ・・・ 新進気鋭の作曲家の

 バレエ音楽 だってウワサだったの。 タイトルは ・・・ 忘れてしまったけれど 

「 ああ メロディはご存じなのですね? 」

「 ええ ええ 大好きって思ったわ。 華やかで ウキウキするもの。 」

「 よかった♪ これはね クリスマスの頃になると方々で聞かれますし

 クリスマスに上演されるバレエ音楽なのです。 」

「 まあ そうなの?  ふんふん ふ〜〜〜ん ・・・ えっと続きは・・・

 たしか ・・・ 」

王妃は確実な音程で 『 花のワルツ 』 を歌う。

「 まあ すてき! きっと貴女の弾かれる竪琴の音は最高なのでしょうね。 

「 弾ける かしら ・・・ もうずいぶんながく弦に触れてもいないんですもの 」 

「 大丈夫。  わたし 竪琴の音で踊りますね 」

 

  ぱこ〜〜ん。  フランソワーズはブーツを脱ぎ棄てた。

 

「 ふふ ・・・ 音があれば踊れるわ。 」

「 ・・・ どうぞ聞いて ・・・? 」

しなやかな指が弦の上に滑りはじめた。

 

    〜〜〜〜 ♪♪  ♪♪  ♪♪  ♪ 〜〜〜

 

澄んだ音色が 石造りの宮にあふれだす。

その音色に合わせ 金の髪を翻し妖精が踊る。

 

  ・・・・ ・・・・ ・・・・・

 

音は 王の部屋から 宮全体に そして街中へ ― 流れていった。

 

 

「 ― 見事であった ・・・ 約束だ、そなたを解放しよう 

王は 視線を遠くに飛ばしている。

「 陛下。 」

「 王様 ・・・ 余計な事かもしれませんけど ・・・ 

 この方が大切だと思ったから ・・・ 妃になさったのでしょう? 」

フランソワーズが単刀直入に尋ねた。

「 だから ― 我は ・・・ 我だけを想って欲しくて ― 妃にしたのだ 

「 それは 貴方のエゴだわ。 」

「 愛してほしいなら まず 愛することさ。 ぼくは そのことを

 フランから教わったよ 」

 

   ふふふ  ・・・ えへへ ・・・ 

 

赤い影たちは 微笑あう。

王は 竪琴を持った女性に向き合った。

「 ・・・ 我は  ― そなたに魅かれた。 だから 」

「 わたくしも ・・・ 」

「 ずっと側にいてくれないか。 そなたの温かい瞳と心を ・・・一生大切にする 」

「 わたくしも ― 陛下のお側で 竪琴を奏でていたい です  

「 ・・・・ 

淡い瞳と大地色の瞳が 見つめあった。

 

 

「 本当に地上には戻られないのですか 」

「 ええ ― わたくしは この ・・・ 海の底で生きてゆきます。 

「 王妃さま わたしも ― 本来生きる時代から切り離されてしまいました。

 でも ― シアワセに巡りあいました。  」

    きゅ。  ジョーとフランソワーズは手を握り合

「 そうなのね?  シアワセは どこにでもあるのね 」

「 はい 」

「 そなた達 ・・・ 海の上まで送ろう。 」

「 え??? 可能なのか?? 」

「 ああ ― 我々は地上に興味はない。 

「 ありがとう!  ― ぼく達も 海の底を乱す気はないよ。 」

「  ― 感謝する。 」

ぱこん  ぱこん ・・・ 二人の 首輪 が 地に落ちた。

 

 

 ― 不思議な風が吹く朝、 ジョーとフランソワーズは地上に戻った。

 

 

 

                     *****************

 

 

 

今でも 時々  海の中からあの音が聞こえる 

たおやかな音 ・・・ 雅な音曲 ・・・ 海鳴りに混じり聞こえてくる

 

 フランソワーズは その音を奏でる白い手を知っている

 ジョーは その音を愛でる存在を知っている

 

 

    海に いるのは

 

     わたしの 愛

 

   海に いるのは

 

   あなたの 恋

 

   海に いるのは

 

   寄せる真実 返すいつわり

 

   寄せる哀しみ 返すほほえみ

 

 

 

 

*******************************     Fin.     *****************************

 

Last updated : 09,20,2016.               back       /      index

 

 

**************    ひと言   **************

やっと終わりました ・・・・

弦楽器って憧れ〜〜♪  淋しい王様?もシアワセに♪